有名な無名人 – 縁

前回からだいぶ遅くなりましたが、予定通りの読み物をお送りします。


有名な無名人 – 縁

博霊神社へ花見に行く。
前から決めていたことだ。

慧音が言うには、最近は毎年恒例の行事のようになっていて、
霊夢に関わった者達が博霊神社で花見をするようになっているらしい。
しかし、数日前に花見をしたメンバーは今日は行かないそうだ。

一人で向かうのは危険だという事で、阿求が俺と同じ日に花見に行くという方と同行してくれることになった。

その者は白玉楼という所の屋敷にいる庭師とその主人。
どうやら神社に行く前に里に寄るそうで、そのついでに俺を拾うらしい。

そして今、待ち合わせのために龍の石像のようなものの前で俺は待っていた。

「お待たせしました。
 貴方が連氏さんですね?

そうこうしているわけでもないが、例の庭師・・・とは見えない少女が話しかけてきた。
本人であるかを聞いている辺り、恐らく彼女がそうなのだろう。

「ああ。そうだ。

俺は本物であると答える。

「私は白玉楼の庭師、魂魄 妖夢と申します。

やはり庭師だったようだ。

「そして、後ろにいらっしゃるのが主の西行寺 幽々子様です。

主を紹介したのはいいのだが・・・

「・・・その方はどこだい?
「え?

妖夢の後ろ辺りにも目をやるがそれらしい姿も見えない。

「・・・あ。
 幽々子様またいない~・・・。

居ないことを確認するとガックリと肩を落とし、頭を垂れる妖夢。
どうやら何度も同じような事があったらしい。

「大丈夫か?

気の落ちようがとてつもなく見えたので心配になって声を掛けた。
その体勢のまま妖夢は、

「今日はこれで12回目ですよ・・・。
 あたり構わずつまみ食いして・・・。
 はぁ・・・。

さらに落ち込んでいた。

「急いで探した方がいいんじゃないか?

「いや、いいんですよ。急がなくても・・・。
 此処で美味しい物を探して買ってから花見に行く目的なんですから。
「じゃあ何でそんなに落ち込むんだ?
 妖夢は振り回されてるだけじゃないのか?

「そうなのかもしれませんけど違いますよ。
 幽々子様はよく食べる癖があって、
 より美味しい食べ物を求めて各々の店でつまみ食い・・・基、試食しているんです。
 それで最終的に良いと判断したものを花見に持って行くつもりだそうですから。

主人がしている行為については、確固たる理由があるということを一応妖夢は理解しているが、
やはりその行動にどこか理解しがたい所があるのだろう。

「でも、私に一言いってから寄って欲しいのですが、
 見ていない隙にふらふらと食べ物屋さんに吸い込まれていくんですよ。

 大体幽々子様は食べ過ぎなんです。
 あんなに食べても食べたりないって言って懲りないし。
 それに・・・。

なんか妖夢の主人への愚痴を聞く状況になっているんだが・・・

「主人の愚痴を会って早々の人に言うもんじゃないわよ?

愚痴を聞いてるこの状況に割って入ってきた女性。

「・・・あ!
 ゆ、幽々子様!?

どうやら彼女がその食べ癖のある主人らしい。

「あの、いや、その・・・
 こ、これはですね・・・。

凄くしどろもどろに、そして、

「花見が終わったらお仕置きね~。
「あわわ・・・。

慌てふためき、後ずさる妖夢。
と、

「わわっ!?
「おっと。
 大丈夫か?

後ろの俺に気づかずにぶつかり、コケそうになった妖夢を両脇を抱えて転倒を阻止した。
抱えかたがおかしいが、こう止めてなかったら両手に持ってる袋の中に恐らく入っているであろう食べ物が
振り回されておじゃんになるところだっただろう。

「あら、フォローありがとー。
「どういたしまして。

しばし沈黙。

「・・・あ、あの、もう大丈夫ですので離していただけませんか?
「なあ、幽々子さんとやら。
「なあに?
「お仕置きは今やった方がいいんじゃないか?
 後にすると甘えで取り消しかねないぞ。

見たところしっかりしているのかいないのか分からないので、本心を探る意味で興味本位で言ってみた。

「え?あの・・・。
「あら~そうね。
 さっきだって荷物を落としそうだったし、
 いまお仕置きした方がいいかしらねー。
 じゃあ貴男のお言葉に甘えて・・・。
 そうねぇ、何が良いかしら。

そう言って妖夢の両手に持っていた袋を幽々子が持つ。

「・・・ああ、そう言えば貴男の名は?
「威原 連氏だ。
「そう。
 じゃあ連氏さん。
 妖夢をおぶって頂戴。

『・・・は?

俺も妖夢も意味が分からない指示を受けて呆然した。

「いいから妖夢をおんぶなさい。
 これが妖夢へのお仕置きよ。

「わ、分かりました・・・。
「・・・。

・・・まあ、たいして怪我も不調もないのにおぶられるのは自意識的に恥ずかしいから、ある意味罰とはいえるか。
俺も少し恥ずかしいんだが。

と言うわけで早速妖夢をおんぶする。
特に嫌ではない。

「よっと・・・。
 体、軽いんだな。
「半人半霊ですから・・・。

耳元でぼそっと言われるとくすぐったいぞ。

「さあ、行きましょうか。
「ああ・・・。

事実、このお仕置きはどんな意味があるのやら。

それからその状態のまま花見に持って行く食料を珍味した後に決定し、神社へと向かった。

俺は前に創っておいた霊夢のアクセサリを使って飛んで移動した。
このアクセサリには飛行できる能力が備わっている。
・・・勿論、妖夢をおんぶしたままだ。

「幽々子様、
 このまま何者かに襲われたら、私が対処出来ないのですが・・・。
「んー?
 大丈夫よ。
 妖夢をおんぶしてる人が何とかしてくれるわ。

余計な迷惑だな。
この状態では何もできないじゃないか。
そうでなくとも何もできないのに。

「何もないことを祈りたいね。

文句は言わずにそう言っておいた。

・・・まあ、何もなく無事に着いたんだが。
しかしいつまで妖夢をおぶらせる気だ?


「お待たせー。
「あら、いつもより早いじゃない。

神社の入り口に到達後、最初に出迎えてくれたのは、スキマから上半身を出している八雲 紫。
俺を此処の世界に連れてきた人物の一人だ。

スキマから覗いている紫の裏側にいたことがあるので分かるが、
この状態をスキマの向こうから見てると上半身がない姿で非常にシュールな光景なのだろうな。
此方は此方で足がない姿だが、顔が見える分、マシだな。

そんなことを考えていると、二人の他愛ないおしゃべりも済んで、
「ほら、行くわよー。

と、せかして二人とも行ってしまった。
まあ、歩いて追うとしよう。
直ぐ其処だし。

神社の境内では、既にいくつものグループで纏まって花見を楽しんでいた。

「あら、あんたも来たのね。

この神社の主、と言っていいのだろうか。
巫女の博霊 霊夢が素っ気ない挨拶をした。

「ああ。折角だからな。
 行事のようなもんだろ?

「行事、ねぇ・・・。

なんか微妙な顔つきで頬を人差し指でかく仕草をされた。

「違うのか?
「なんて言うのかなぁ。ただ単にあいつらが此処で花見や宴会がしたいって言ってるもんだから、
 いつの間にかこうなっただけよ。
 ま、案外悪くないけどね。私としても宴会は楽しいし。

自覚しているのかいないのか、よく分からないな。

「ともかく、俺のこの状態を見て何か言うことはないのか?
「何って、妖夢をおぶってるだけでしょ?
 それがどうかしたの?
 怪我でもしたの?

平然と返事をする霊夢。

「なんだ?
 これはいつもの事なのか?

妖夢に問う。

「ち、違いますよ!
 これは幽々子様が・・・。

そうだよな。いつも罰でおんぶさせられるわけ無いもんな。

「やっぱりね。
 そう言うことこだろうと思ったわ。
 またあの亡霊のお遊びって訳ね。

やはり勘か。
勘で答えられるのは困るんだが、霊夢の場合は良く当たるらしいから更に困る。
更に言えば自信があるからとかそういうわけでもなく言うから尚更だ。

「妖夢ー、もう降りて良いわよー。
 ついでに此方に来なさいなー。

既に花見をしている幽々子から声がかかる。

「あ、はい。分かりましたー。

どうやら罰は終わったらしい。
と言うか只のお遊びだったようで。
結局甘やかしているな。あの主人は。

俺は妖夢を降ろすと、妖夢はすみませんでしたと俺に一言いって、小走りで幽々子の元へ向かっていった。

「・・・で、あんたはどこで花見をするのかしら?

「そうだな・・・
 そこでいいか?

俺は縁側を指差す。

「そこは私の特等席よ。

そこはダメ、といっているようだがそうではない。
霊夢は補足する言い方をしていた。

「そうか。じゃあその隣にするか。
「そうして頂戴。
 只の人間があんな魑魅魍魎の中に、しかも闇雲に混ざったら生きて帰れないかもしれないからね。
 しかも男なのはあんただけだし。

実際そのようなメンツのようだし、一先ず大人しく此処で静かに楽しむとしよう。
どんな奴らなのか見定めてから加わっても構わないだろうと思っていた。


日が暮れ始めた頃、俺はまだ宴会の様子を眺めていた。
酒の飲み比べをする者、世間話に花を咲かせ、それを笑い飛ばす者、すでに酔いつぶれている者、等々だ。
幻想郷と言えど、宴会にはさほど変化がなさそうだ。
・・・程度の違いを除いて。

違いすぎて混ざりたくないのだ。


「アイツらを見てて面白い?

ふと横から声をかけられる。
霊夢ではない。

「あんたは・・・?
「私はルナサ。ルナサ・プリズムリバー。
 演奏を行う幽霊楽団員よ。

見ると黒と白で統一された服を着ている。
確かに、演奏楽団のような服装だ。

彼女も演奏に来ただけでなく、宴会に参加しているのだろう。少し顔が赤い。

「俺を誘ってもなにもすることは無いぞ?
 俺はあんな五月蝿いのは好かないんだ。

「私もよ。
 疲れたから此方に来た。

「そうか。

俺はそのまま横に置いてる酒を呑む。

「隣、いいかしら?
「ああ、構わない。

ルナサは俺の隣に座り、置いてあった酒瓶などが入っている木箱を背にもたれる。

そしてルナサは一息つき、

「・・・で、どうなの?

最初の質問を聞き直した。

「・・・俺は職業柄、人間観察することが多くてな。
 この世界に住む以上、人などの行動を改めて知るために最近やってる。

「そうなんだ。

そう言って、ルナサは持ってきていたコップを一口。

なんというか、ルナサがいるせいか、宴会の騒がしさが小さくなった気がする。
気がルナサに向いているからだろうか。
宴会ではルナサと同じような色違いの服を着た二人が何か言い争っている。
同じ団員の者だろう。

しかし横に居るルナサは特に何もせずただ見ている。
そう・・・俺を見ている。

「・・・俺の顔に何か付いてるのか?
「ええ。
「ん?何がついてるんだ?

俺は手を顔に当て、ついているらしいモノをさぐる。

「・・・そうじゃないわ。

「え?

「・・・『仕事の顔』よ。
 花見をしてるんでしょ?

はたと気付く。
そう。俺は仕事をしに来た訳ではない。

「・・・そうか・・・

「今は花見の宴会中よ。
 仕事なんて忘れて呑めば良いのに。

花見。
それをするために此処に来て居るのに、
いまだこの縁側に座っている。

藍にも言われたことなのに、まだ幻想郷に慣れていないと言うことか。
仕事中毒気味な所も直さないとな。

「・・・そうだよな。うっかりしてたな。
 じゃあ、花見として改めて呑むとするか。
 ・・・ルナサ、これも何かの縁だ。

「・・・何?

「付き合ってくれるか?

「・・・へ?

全くもって主語が足りない。
前々から自覚しているというのに、もはやこれは癖だな。

「ああ、すまん。勿論花見にだ。
 初対面にいきなり縁だけで恋愛しようだなんて不届き者はいないだろ?

「ま、まあそうよね。
 構わないわ。
 貴方がネガティブ思考じゃない人ならね。

「俺はそれなりに酒にも強いから問題ないさ。
 さぁて、改めて呑みに行くとするか。

「ええ。


後ろにあった酒瓶を一本持ち、
近くの空いていた桜の元へと移動し、腰掛けた。

酒瓶を空け、両者のコップへ。
各々が一口を飲み終える。

「・・・ああ、肴を持ってこなかったな。
 まだ残ってるかな?
「私が持ってくる。
 まだミスティアが蒲焼き作ってたはずだから。

ミスティアか。
前の花見のときに屋台出してる妖怪だって聞いた記憶がある。


「ああ、すまない。頼むよ。

蒲焼きか。
そういえば神社の裏手辺りからいい匂いがするが、それか?

「やっと花見に参加したのね。
「・・・紫か。

ルナサが離れたのを見計らってか、
向こうから歩いてきた紫。

「幻想郷の者達に、中々良い対応してるじゃない。
「何がだ?

紫の手にはコップ。
中身は酒だろう。

「そんなにいないわよ?
 知恵ある妖怪達に何の隔たりもなく話すなんて。
「そうか?

俺の隣に座り込む。

「そうよ。
 大体遠慮するか大袈裟に見栄張ったり、あるいは臆病になったり。
 そんなのばっかりだもの。外の人間は。

「外と比べられちゃ困るな。
「・・・どうして?
「俺は紫の導きで此処に居る。
 それが理由じゃないか。

言ってしまえば紫が選んだ人間だ。
その時点で一般とは違うと言える。

「あら、貴方も空から落ちたかったり妖怪の前に放りだされたりしたかったのかしら?
「冗談を。
 俺の力を頼ってるくせに。
「酷い言い草ね。
「此方に来たときに言われたやつのお返しさ。
「そんなこともあったかしらねぇ。
 ・・・あら、戻ってきましたわね。

少し小走りで蒲焼き2人前を持ってきたルナサ。

「おや、紫さん。
「どうもー。連ちゃん借りてたわよー。

『連ちゃんて。

二人してつっこむ。

「あ・・・蒲焼き、紫さんの分も持ってきましょうか?
「いいわ。
 もう取ってきてるから。

そういっている間にスキマから蒲焼きが乗った皿を取り出した。

「さて・・・。
 これも何かの縁。
 これから3人、まったり花見を楽しみましょう。
「・・・ああ。


縁とは得てして不思議なものです。
その時から友達になったり、お得意様になったり、はたまた一緒に居ることになったり。
腐れ縁という仲になったりもしますね。

縁は、言い換えれば偶然、又は運命とも例えられそうですね。

「これも何かの縁、最後まで付き合っていただけると幸いです」

なんてことが書いてあったら、貴方はどうしますか?
縁だと言うことで付き合ってみようと思ったことはあるのではないでしょうか。

不思議ですよね。縁って。

それでは今回はここまで。


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