有名な無名人 – 会(後)

後半部分です。

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有名な無名人 – 会 後編


日が傾く。
俺がみんなとも打ち解け始めたころだ。


「・・・・・・あら?
 向こうから誰か来たみたいね。

アリスがみんなに誰かが来たことを知らせる。

「あ、アレは寺の方達ですね。
「何!?

さて、何故俺が驚いているのかというと、

「・・・あ!
 連さんじゃないですか~!

と、此方に向かっていた人達のうち、
いきなり一人がこっちに走ってきて、

「ぐぁ!

ドーンと俺にぶつかって、

「んふふ~。
「・・・おい。いきなり抱きつくな!

・・・こういう事になるからだ。

あぶないあぶない、汁物をこぼすところだった。

「こらこら。
 村沙、余り困らせるんじゃない。
「あはは、ゴメンゴメン。
 つい、ね。
「ついも何もないだろ・・・。
 ったく。


詳しい内容は割愛するが、
先日、飛行船に観光目的(ただし人里へ向かうついで)で乗ったとき、
時間つぶしの合間に彼女のアクセサリーを創ることになった。
彼女はそのアクセサリーをいたく気に入ったらしく、
あろうことか彼女に好かれる事になったわけだ。

この技術の所為で何故か好かれてしまうことが多いということは慣れてはいるが、
まさか人間以外にも当てはまるとは思わなかったし、
ましてや熱烈じみた行動を取るとは思いもしなかった。

抱きつきを止めて一行に戻った後も彼女はチラチラと此方を見ている。
これじゃあ軽くストーカーだな。

・・・まあそれはともかく、夜桜の花見に来たのか?
それらしい荷物だが。


「すみません。

一行の一人、聖 白蓮が物申した。
ついでに言うと、俺はこの一行の彼女達のことは先の飛行船の時に知っている。

「ん?なんだい?

普通に返事を返す妹紅。
だが顔は酒で朱い。

「お花見、私達も参加して宜しいですか?

ああ、やっぱりそうか。

「ん?いいけど・・・。
 花見なら向かいの桜でも出来るぞ?

聖はふるふると首を横に振った。

「彼方の桜で花見をしていては、川を隔てたかのように
 相手が居る桜とどちらが良いかなどと比べてしまうでしょう。
 それではせっかくの花見も楽しめません。
 此処で皆さんと一つ桜の下で花見をすれば、
 そのようなこともなく、皆さんと一緒の気持ちで
 お花見を楽しむ事が出来ますから。

なんだかそれっぽい理屈を並べて混ざりたいと言っているような気もするが。

「うむ。それもそうだな。
 花見の時は要らない事を気にせず大人数で賑わうのが良い。

慧音の顔もやはり朱いが、
言動はしっかりとしているように感じる。

「では、宜しいのですね?
「ああ。構わないさ。
「有り難う御座います。

軽くお辞儀をする白蓮。

こうして、聖達5名が花見に参加することになった。
グループとして隣にいるということではなく、
文字通りそれぞれ交互に入り交じって料理を囲む輪となった。
それは白蓮の提案だった。

案の定、俺の隣がいいと村沙が言い出したが、
さすがにそれは勘弁したかったので、結果、聖と一輪が隣になった。


それから暫くそれぞれが新しい話と料理を肴に花見を楽しんでいた。
そんな中、唐突に慧音が言い出す。

「そうだ連。せっかく道具をもってきたんだから、
 何かアクセサリーを作ってみてくれないか?
「え?
「工具まで持ってきてるって事はさ、
 できるんでしょー?ここでさー。

妹紅まで賛同する。

「まあ、そうだが・・・。

ということで俺は「仕事」をすることになった。
仕事っていっても、単なる依頼だが。

まあ、別に嫌いな訳じゃない。
むしろ創るのは好きなぐらいなのだが、折角の花見なのになぁと少々残念に思う。

まあ、気楽にしゃべりながら作るというスタンスだから、
両方一緒に楽しむのもオツかなと思った。

そんな俺はどうなんだろう。

「で、誰のアクセサリーを作るんだい?
「誰のでなくても良いさ。
 何か適当なモノで良い。
 正直、私は創ってる姿を見てみたいんだ。
「う~ん、適当はちょっと困るな。
 俺の創作アクセサリーは相手について、俺が想う心像から形にするものなんだ。
 何も想わないアクセサリーは作ることはできないんだ。
 だから、誰か相手がいないとアクセサリーは創れない。

「む。そうか・・・。

空想で創られたものは誰のでもない。
その空想自体に意味がなければ作る価値もないモノだ。
少なくとも俺の技術での話だが。

因みに、練習や暇つぶしなどでも空想物を創作してはいけない決まりがある。
よくわからない決まりだと昔から思っていることだ。

「なら、私のアクセサリーを作ってもらえる?

と、これまた唐突にアリスが立候補をした。

「ああ。いいぞ。
 ・・・っとちょっと待って。残りの食べてからにするわ。

これまで話してばっかりだったため、
残っていた自分の受け分の料理をかるく平らげ、早速準備をする。


尻を地に付け、桜の木によしかかり、足を延ばす。
この格好が俺の作業スタイルだ。
いつもは壁によしかかるが、今回は桜の幹だ。

もう日が完全に暮れてしまっているが、
聖達が用意した光源のお陰で宴会を続けていられる。

暖かみのある光の所為か、何気ない雰囲気を漂わせている。

「さて、そうだな・・・アリス。
「何かしら?

アリスは余り呑んでいないのか、
会ったときと顔色は余り変わらない。

「さっきの話を聞いたと思うが、
 相手、つまり君のアクセサリーを、
 俺が思う、君についての心像で創るんだ。
「ええ。
「だから、俺が君を想えるように、
 アリスのことを出来るだけ細かく教えてくれ。
 ありのままを教えてくれないと、
 アリスの事を想えないからな。
「・・・えっ?

俺の商売文句に反応してか、少し声を高く発し、頬を赤らめていくアリス。

「・・・ああ、勘違いしないでくれ。
 これは俺の商売文句なんだ。
 告白だとか口説きだとかと良く間違われやすいが、
 こういうスタンスなんだ。
 でないと、ちゃんとしたアクセサリーができないからな。

アリスはすっかり顔が赤くなり、俯いてしまう。

「いや・・・わ、判ってるんだけれど、ね・・・。

気になるとどうしようもないタイプなのだろうか。

「・・・まあ、他の人がいるし、嫌ならパスしてもいいさ。

こういう事は良くある。
意識してしまうと喋りづらいからな。

「・・・そ、そうね。
 今は止めて、今度にするわ・・・。

しどろもどろに答えて自分のいた場所にそそくさと戻っていってしまった。

「うーん、そうか・・・残念。

残念がる慧音。
そんなに見たかったのか?
何がとは言わないが。

「・・・仕方ないな。
 言い出しっぺの私でお願いしようか。
「ああ、わかった。

そういう訳で俺と慧音でアクセサリーを創る事となった。
慧音は体だけをこちらに向け、淡々と自分のことを話していく。

その間、宴の方では俺の事について話題になっていたようで・・・。

ア「・・・。
妹「なんだぁやめたのかー。
  顔が赤いぞー?
ア「・・・そりゃあ、他人に言えない過去だってあるわよ。
  言いたくない過去もあるし・・・。
妹「まあそれはそーだな。誰にだってあるもんね。
  ・・・でも、其処までさらけ出す必要があるのかねー?
星「私は先日も、彼の制作現場を一部始終見ていました。
  その行為は、自身が相手を想う心像から創り出され、
  その想いがアクセサリーの形へと成すようです。
  更にその影響により相手の力を創作物へと付与されるようで、
  結果、創り出されたアクセサリーには、
  相手の由来する何らかの力が宿されるそうですよ。
妹「ふーん・・・。
星「あと、それとは別に、彼の話術に影響されて、
  村沙のように彼を意識してしまう事があるようですね。
ア「・・・村沙って?
星「私達が来たときに連さんに猛ダッシュで抱きついた子ですよ。
  ほら、そこでもう既に寝てる子です。
村「Zzz...
ナ「酒を呑むと途端に眠くなるらしいからな。
  呑んで直ぐに大人しくなったよ。
星「村沙は彼との話に強く感化されたみたいなんです。
  話を聞いている限り、人生相談の様でしたが・・・。
ナ「彼はその作業柄、好かれやすいタイプだな。
  全く罪な男だよ。
  君も気をつけた方がいい。
ア「・・・。
一「でも、人生相談の代わりって思えば
  そんなこともないよね?
  ほら、占いとかってそんな感じでしょ?
ナ「異性相手に親身になって話して、相手の心の懐に近づこうと
  しているのに、君はそう割り切れるのかい?
一「うーん・・・、人によるのかな?
星「そうだと思いますよ、一輪。
  十人十色と言われるように、彼との会話が
  各々の人の心に与える結果は違うのです。
  それは貴女達にも、私にも言えることです。
ア「・・・そうね。
藍「『君のために創るから君のことを知りたい』という部分が
  気を引くんでしょうね。

阿「・・・あ!
  そういえば霊夢さんの所でもアクセサリーを創ったって話を聞きましたよ。
妹「へぇ。て言うか唐突だな。
  で、どうなったんだ?
阿「霊夢さん自体にさっき言ってた心境とかの変化は無かったみたいです。
  何でも、幻想郷を移動するために創ったとか。
聖「ああ、あの時の事でしたのね。
  成る程。
阿「知ってるんですか?
聖「ええ。
  丁度、先の問題の解決のために神社に向かった時に、そのような話をしていました。
  それで、二人は早速そのアクセサリーで私の力を借りずに船まで一緒に向かったんですよ。
妹「二人?
  もう一人は誰だ?
聖「問題を解決して下さったあの方ですよ。
ア「ああ、成る程ね。
  でも、異変の起きてる船に観光に行くなんて変な人なのね。
星「そう言ってしまえばちょっと変ですけど、問題があったのは内部だけでしたから。
  彼は単に空飛ぶ船を見たかったのでしょう。
一「そう言う関係で彼は船の内部は観覧しなかったけど、
  影響の無かった、看板にある少し広い部屋で私達と色々話をしながら一晩を過ごしたんです。
ナ「そこで寝てる村沙が、その日を境に彼奴を好きになったのは言うまでもないな。
妹「ふぅ~ん。


・・・とまあ、こんな話をしていたんだそうだ。
勿論、俺はそんな話など聞かずに慧音のアクセサリーの創作をしていた。

手短にすますようにアクセサリーを創作したため、
そんなに時間もかからずに完成した。

--慧音が話した慧音自身についての話。

慧音自身、元々複雑な人生ではなかったようで、自身のことに恥じることもなく淡々と話していた。
普段は里の為に働いていて、妖怪のワーハクタクとの半獣で、歴史を食べ、創る程度の能力をもつ。

それらが俺の想う彼女の心像となった。

普通はもっと時間をかけて相手の事を聞いていくのだが、
妖怪達は非常に個性的のためか、心像はいつもより容易く形作ることができた。

そうして出来上がったアクセサリーは、

「・・・ネクタイ、か。

金属片が付いた小さな赤い蝶ネクタイだった。
正直創ること自体に殆ど時間はかけなかった。

「金属だけのアクセサリーなんて、似合わないだろ?
 だからコレにした。
 ほら。
「ああ・・・ありがとう。

慧音は完成品を受け取り、しばし眺める。

「・・・しかし、何も変哲もないように見えるが、
 やはり、私の力が付与されているみたいだな。
「そうか。
 俺には付与されてるかどうかなんてさっぱりわからないが、
 とにかく出来たようだな。
「そのようだ。
 じゃあ、これは連が持っているといい。

そう言って、先ほど手に入れた慧音の為のアクセサリーを俺に返した。

「え?貰わないのか?
「元々制作状況を見たいが為の依頼だしな。
 お陰で連のその能力が判ったよ。
「俺の能力・・・?
「相手の能力を道具に宿す力。
 そうだな、『能力を物に複写する程度の能力』とでも言えばいいだろう。

「能力を物に複写・・・。

つまり、相手の事が解ればその相手の能力を道具に付与させて扱える、
と言うことなのだろう。

「一つ聞くが、以前相手した者のアクセサリーを、
 相手がその場にいなくても創れるのか?
「やった事はないが、その行為自体禁じられているから、出来ないってことになるな。

元々この技術は相手がいてこその技術であり、
特に自分勝手なアクセサリーを創ることはタブーとされている。
そして、これらの意味はこの力があると判明した今なら、

「俺自身が思うに、今いる相手がいるからこそ力が宿るんじゃないだろうか。

この説が有効だろう。

「そうか。それを聞いて少し安心した。
 妖怪の中には危険な力を持っている奴が多いから、
 脅されでもして、それを量産されると危険だ。
「ああ。十分注意しておく。

「それと、そのネクタイ。
 歴史を消す力が宿っているから、十分注意した方がいい。

慧音の持つ能力の内、歴史を消す方の力がこのネクタイに含まれているそうだ。

「歴史を消す・・・か。
 歴史となれば、どんな小さな事でも出来るんだな。
「ああ。
 出来れば、その力を今のうちに放出してやった方がいいだろう。
 この先支障のない歴史に、な。

たしかに、変な部分の歴史を消されたら危険だしな。

「じゃあ・・・。

俺は耳打ちをした。
俺にはこれから生きる上で不要な歴史がある。
そのことと、その内容を慧音に伝える。

「・・・そうか。
 確かにそれは行った方がいいだろうな。
 双方の利に適っているだろう。
「よし。じゃ、使うぞ・・・。

金属片の付いたネクタイを両手で包む。
そして、俺自身は心に念じただけだが、

「・・・うん。うまくいったみたいだぞ。
 そのアクセサリーから力の気配が消えた。

それだけで扱える力らしい。

そして、ふとそのネクタイをみると、いつの間にか金属片が無くなっていた。
トレードマークの意味も込めて毎度付けていたものなのだが、発動のトリガーになっていたのか?

「・・・だけど、結果が分からないな。
「そうだろうな。
 当の本人はあの状態だし。


そうして、
やっとこさ俺と慧音は宴のほうへ戻っていった。

それから・・・、

藍・星と白蓮は紫について話していて、
ナズーリンはちょっと向こうで子ネズミ達に餌をやっていて、
アリスと妹紅は俺には理解できないレベルの会話をしていた。
阿求はそれらの様子を観察している。
阿求は幻想郷縁起の編修のための情報収集をしているという事らしい。


こうして夜も更け、外の世界では人間たちが寝付く時間帯のころ、
解散した。

里へ戻った俺は、夜の里の風景が大きく違うことに驚いた。
人里だと言うのに、妖怪達しか見当たらないということに。

俺の驚く顔を見て、阿求は不気味に言う。

「驚きましたか?恐怖しますか?逃げ出したくなりますか?
 ・・・私達は、それでいいんです。

特にどういうことなのかとも言わないので、阿求の言葉には理解できなかった。

そのまま慧音達と別れ、阿求と一緒に家路に向かう。
それまで、すれ違う妖怪が気が気でなく、緊張していた。

家に入り、緊張がほぐれた頃、先ほどのこと・・・彼女の言った言葉の意味をようやく理解した。


妖怪と人間とのあるべき関係。
妖怪は人間を襲い、人間は妖怪に恐怖する。
それが、此処での確立しているルールと言うことか。

妖怪の存在意義をようやく理解したものの、
その妖怪達から襲われた事がまだ無い。

これから先、どんな妖怪から襲われるか知るよしもないが、
喰われる事にならないようにしないとな。

とりあえず、この里なら大丈夫・・・なのだろうか。
人里のもう一つの顔を見たような気がして、何だか不安になってきた・・・。


彼は外来人。
無論、外では妖怪に会うことすらない世界で生きてきている。

妖怪の存在については幻想郷にきてから頭では知っていたものの、
実際に触れ合うことにより、本来とずれた概念を持ってしまっていた。
そのため、不安や恐怖という気持ちを抱くことさえも無かった。

自分が感じた周りにある当たり前の事が崩されると、何を信じていいのか判らなくなりますよね。
例えば、自分に親しくしてくれる親友だった人達が、ある日を境に訳も分からず敵視されて孤立するとか、
異性からよくモテているのは容姿や性格がいいからではなく、金や地位などの威厳だけが目的だったりとか。

え?そんなこと普通はない?
雰囲気さえ判ればいいんですよ。
幻想郷ってそんなところですから。

さて、次は神社の方にも花見に行ってきます。
次回も幻想郷の日常を想起し、字に現していきます。
ですが、表現の仕方が巧くないので伝えられているかどうか不安です。

では、次回の読み物までまた。

[exmy-link id=”242″ title=”次です”]。

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